戦争の過ちを二度と繰り返さないために

「9条の会さかい」発信 2019.4 No.25

2019年04月27日 00:10

恵まれた能力の使い道

 ジェンダ―研究(女性学)の先駆者上野千鶴子氏(東大名誉教授)をご存知の方が女性には多いだろう。東大入学式で女子新入生に向けた彼女の祝辞「頑張っても公正に報われない社会があなたたちを待っている」として反響を呼んだ。ネットに公開されたその全文からは、男女の能力に性差がないにもかかわらず不当な差別に支配された社会構造に対して、それを変革する人になれと呼びかけた強いメッセ―ジが読み取れる。

 「あなたたちが『頑張ったら報われる』と思えるのは、周囲が励まし、やりとげたことを評価して褒めてくれたからだ」として、能力を発揮するには環境と支えが必要と述べた。しかし、「世の中には、頑張っても報われない人、頑張ろうにも頑張れない人、頑張る意欲をくじかれる人がいる」と指摘した上で、「あなたたちの恵まれた環境と能力をそのような人たちのために使って」と諭し、「自分が勝ち抜くためにだけに使わないで下さい」と使い道を示した。

 祝辞はさらに、「女性学を生んだのはフェミニズムという女性運動、フェミニズムは女も男のようにふるまいたいとか、弱者が強者になりたいという思想ではありません。フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です」と言及する。

 祝辞からは貧困、障害、マイノリティなどを背景にした人たちへの不当な差別からの解放をも示唆しているように読める。祝辞の薫陶を受けた東大卒官僚に期待したい。

 

 

リセットさせてはならない

 四月一日、政府は新元号を公表した。間髪入れずに十日には新紙幣発行も公表した。相次ぐ大臣級閣僚の忖度失言などで批判が高まる政権が矢継ぎ早にした一連の行為は、国民の好感を利用して政権への高揚感を煽るかのようだ。

 そんな政権の思惑が功を奏したのか、安倍内閣支持率は前回よりも9.5ポイント増の52.8%、不支持

率は8.5ポイント減の32.4%になった。この能天気さには落胆の極みである。

 私たち国民として忘れてはならないことがある。安倍政権への重大な「忖度」であるモリカケ疑惑だ。森友学園問題は、首相の妻昭恵氏が名誉校長を務めた学園に、国税局が国有地を不当に値引きをして払下げしてしまった。安倍首相は「私や妻が関与していたら首相も議員も辞める」と公言した。これがさらなる忖度への引き金になり、国税局は公文書改ざんに手を染めた挙句、佐川長官が国会答弁拒否を演じた。近畿財務局では一人の役人が改ざんを強いられた果てに自殺した。大阪地検は、この事件を主導したとされる佐川氏を「不起訴」にしたが、検察審査会が疑惑解明の再捜査に乗り出した。

 加計学園問題は、安倍首相の「腹心の友」加計幸太郎氏の加計学園への獣医学部新設に際し、柳瀬首相秘書官が異例の便宜を図った。それを裏付ける「総理の意向だ」と記した文書も存在した。安倍首相と加計理事長からは、この疑惑についての責任ある説明が聴かれず現在に至っている。

    国民が新元号などというものに浮かれている隙を狙ってリセットをさせてはならない。

 

 

真逆の「抑止力」思考の危うさ

 自衛隊の米艦防護は、米国が中国への対立を強めるに伴い増加している。南シナ海では、中国艦艇と米艦との間で一触即発の事態も生じている。米中艦艇が交戦すれば、自衛隊が巻き込まれるのは必須だ。このような状況でも、日米同盟による軍事行動の一体化が戦争への「抑止力」を高めるとして、安倍政権は積極的な姿勢を崩さない。

 柳沢協二氏(元官房副長官補)は、米国にとっての抑止力とは「戦争に勝つ力」を意味するが、日本では「戦争にならない力」という思い込みがあると指摘する。このような真逆の抑止力思考によって、米艦を守ることが日本の安全に結びつくような錯覚しているという。現実的な戦争を想定していない「抑止力」過信が極めて危ういと警告する。

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