戦争の過ちを二度と繰り返さないために

「みるく世がやゆら」   ~ 沖縄全戦没者追悼式「平和の詩」 ~ 

2015年06月25日 13:02

沖縄全戦没者追悼式「平和の詩」

 

6月23日、沖縄戦戦没者への追悼式で詠まれた高校生の散文詩を紹介したい。

 

 

 

「みるく()がやゆら」

与勝高校三年 知念(まさる)

 

 

みるく世がやゆら

平和を願った 古の琉球人が詠んだ琉歌が 私へ訴える

(いくさ)()()まち みるく()ややがて (なじ)くなよ臣下(しんか) (ぬち)(たから)

七〇年前のあの日と同じように

今年もまたせみの鳴き声が梅雨の終りを告げる

七〇年目の慰霊の日

大地の恵みを受け 大きく育ったクワディーサーの木々の間を

夏至(かーちー)南風(べー)の 湿った潮風が吹き抜ける

せみの声は微かに 風の中へと消えてゆく

クワディーサーの木々に触れ せみの声に耳を澄ます

みるく世がやゆら

「今は平和でしょうか」と 私は風に問う

 

花を愛し 踊りを愛し 私を孫のように愛してくれた 祖父の姉

戦後七〇年 再婚をせず戦争未亡人として生き抜いた 祖父の姉

一九四五年 沖縄戦 彼女は愛する夫を失った

一人 妻と乳飲み子を残し 二十二才の若い死

南部の戦跡へと 礎へと

夫の足跡を 夫のぬくもりを 求め探しまわった

彼女のもとには 戦死を報せる紙一枚

亀甲墓に納められた骨壺には 彼女が拾った小さな石

 

戦後七〇年を前にして 彼女は認知症を患った

愛する夫のことを 若い夫婦の幸せを奪った あの戦争を

すべての記憶が 漆黒の闇へと消えゆくのを前にして 彼女は歌う

愛する夫と戦争の記憶を呼び止めるかのように

あなたが笑ってお戻りになられることをお待ちしていますと

軍人節の歌に込め 何十回 何百回と

次第に途切れ途切れになる 彼女の歌声

無慈悲にも自然の摂理は 彼女の記憶を風の中へと消してゆく

七〇年の時を経て 彼女の哀しみが 刻まれた頬を涙がつたう

蒼天に飛び立つ鳩を 平和の象徴というのなら

彼女が戦争の惨めさと 戦争の風化の現状を 私へ物語る

 

みるく世がやゆら

彼女の夫の名が 二十四万もの犠牲者の名が

刻まれた礎に 私は問う

みるく世がやゆら

頭上を飛び交う戦闘機 クワディーサーの葉のたゆたい

六月二十三日の世界に 私は問う

みるく世がやゆら

戦争の恐ろしさを知らぬ私に 私は問う

気が重い 一層 戦争のことは風に流してしまいたい

しかし忘れてはならぬ 彼女の記憶を 戦争の惨めさを

伝えねばならぬ 彼女の哀しさを 平和の尊さを

 

みるく世がやゆら

せみよ 大きく鳴け 思うがままに

クワディーサーよ 大きく育て 燦燦と注ぐ光を浴びて

古のあの琉歌(うた)よ 時を超え今 世界中を駆け巡れ

今が平和で これからも平和であり続けるために

みるく世がやゆら

潮風に吹かれ 私は彼女の記憶を心に留める

みるく世の素晴らしさを 未来へと繋ぐ

 

※みるく世がやゆら・・・平和でしょうか、との意味。「みるく世」は「弥勒世」のこと。

※「戦世や・・・」の琉歌。「戦いの世は終わった/平和な弥勒世がやがて来る/嘆くなよ、おまえたち、命こそ宝」という意味

※クワディーサー・・・モモタマナの木。沖縄戦の死者名を刻む「平和の礎」の周りにも植えられ、広い葉が大きな緑陰をつくる。

(沖縄県平和記念資料館提供、6月24日付東京新聞2面より抜粋)

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