戦争の過ちを二度と繰り返さないために
「九条の会さかい」発信 2021.4 No.49
海洋放出に拘泥する愚行
政府は4月13日、福島第一原発の浄化処理水を海洋放出すると決定した。漁業者に与えた衝撃と落胆は察するに余りある。政府は放射性トリチウム濃度を国基準の四十分の一未満に希釈処分するから安全と説明するが、これまでにもストロンチウムやヨウ素などが処理水中に残留しており、その信頼性は崩れている。
漁業者にとって風評被害は深刻である。原発事故で落ち込んだ漁業の復活に取り組んできた漁師たちの苦労は大きい。当会報№43でもそのことを取り上げた。
トリチウム除去は不可能なのか。それを4月14日付東京新聞が取り上げた。一つは近畿大学の研究である。行き詰まる現状を打開する可能性が紹介されていた。ところが近大がこの研究への補助金申請をしたが審査すら通らなかった。さらに原発内での現場実験を東電に打診したが協力すら得られなかったとのことだ。
これほか、政府が30億円の補助金を出して国内外7社の除去技術の実証実験を行った。その中には処理水量を七百分の一に減らすことが出来るものもあったようだが、政府はそれに取り組む姿勢を見せない。その挙句に海洋放出を決定した。こんな愚行に国民も怒るべきだ。
個人情報の監視への変質
デジタル庁法案が4月6日与党賛成多数で衆院を通過してしまった。法案は私たち国民が新聞を読み解くだけでは分り難い。各地方自治体がばらばらのシステムで個人情報を管理運用している現状から国内共通のシステムに統一する。そこに首相をトップとするデジタル庁を新設して一括管理し、国と自治体が運用するそうだ。しかし、これによって権力も首相の下に集中して、権力の均衡が崩れる危険がある。
では、行政のデジタル化を私たちはどのように受け入れるのか。「デジタル化の本質」宇野重規氏(東京大学)の4月7日東京新聞論説に共鳴する。その論旨は、政府の政策過程や重要情報に対する公開性と透明性がデジタル化本来の目的であると主張する。そして、政府が個人をモニタリング(観察・追跡)できるように、個人も政府をモニタリングできるようすれば、政治も行政もより良いものへと発展するはずだと期待を示す。
デジタル化の発端は、社会保障と税の個人番号制度法案として民主党政権下で練られた。当初は、個人情報がどのように行政機関で利用されているかを確認する仕組みであったはずだが、自民政権に代わり政策判断のプロセス情報は閉ざされたまま、個人情報を監視することに変質してしまった。国民にはその利便性を喧伝するが個人情報の扱われ方に懸念する。
旗損壊罪法案を審議するヒマあるなら!
日の丸を破いたり燃やしたりすると罪になる。そんな法案を自民党の議員有志が今国会に提出しようとしている。この法案の危険性は、役所などに掲げられた国旗に限らず、一般市民が使ったり作ったりする日の丸も対象になる。
法案は「表現の自由」制限と「愛国心」の醸成の思惑がある。有志の一人高市早苗元総務相のブログには「損壊等の行為は、『国旗が象徴する国家の存立基盤・国家作用を損なうもの』であり、『国旗に対して多くの国民が抱く尊重の念を害するもの』だと考えます」とある。
果たして国旗を損壊することが国家を転覆させることになり得るのか。このような事実は存在したことはない。国民の国旗への思いも様々だ。戦前戦中の軍国主義と侵略戦争のシンボルとして日の丸を想起する国民も少なくない。それを法律によって一定の価値観を国家が誘導すること自体憲法が保障する「良心の自由」を侵すことになる。法で縛れば国民は法から離れ、法の実効性も薄れ、法治国家の尊厳も失われる。そんなヒマがあるならコロナ五輪中止の審議に取り組めと言い