戦争の過ちを二度と繰り返さないために
「9条の会さかい」発信 2018. Vol.10
青春の高揚とカ―キ色の抑圧
戦後文壇における最後の無頼派とも言われる作家檀一雄の処女作『花筐(はながたみ)』を大林信彦監督が映画化した。年末から封切りされたので正月に鑑賞した。
映画は、日本が日中戦争の泥沼から抜け切れず、やがて太平洋戦争へ突き進もうした時代が背景だ。舞台は佐賀県唐津、エネルギッシュな「唐津くんち祭り」が映画のシ―ンに彩を添えている。そこで国民全体がカ―キ色の戦争色に染められて行くなか、大学予科生と女学生たち、若さがはち切れる高揚感と戦争の抑圧感がもつれ合って描かれている。原作者の檀一雄は詩人でもあり、情景も台詞も詩的な雰囲気を漂わせ、時代の暗さを浮き彫りにさせている。
それらを切り取るような台詞が印象にのこる。「日本の男は戦争に行って人を殺す。じやあ女はどうすればいいの?」女性が単なる生産の道具とされた背景が滲み出る。「戦争は弾みで立ち上がる」抑制が効かずに拡大していく戦争を青年たちは憂慮する。「病気でいることは非国民なのか?」と病弱な青年は自己否定感に責められる。「戦争が青春の消耗品なんてまっぴらだ!」屈強な肉体を持つ青年の心の叫び。出兵宴席で送り出す者たちと送り出される一人の兵士との距離感が匂う。町中に『一億みんなが興亜へつらなる覚悟を』の標語が目立つようになる。
『一億』とは安倍首相とその政権が国家意識の高揚を狙って標語に使う語彙の一つだ。この映画のなかの時代に似て来つつある。
国柄変質への世論の危惧
安倍首相は新年4日、「今年こそ」と期限付き発言をして改憲意欲を露わにし、政治日程化を示唆するような意思を示した。
一方で国民世論は、安倍首相の下での改憲に過半数が「改憲反対」、「急ぐ必要ない」と答えた。9条改憲でも「必要ない」が53%と半数を超えた(日本世論調査会 昨年12月)。
世論と首相の意識に相違があっては、憲法99条が国務大臣等に課す憲法擁護義務に全く違反している。それを私たちは忘れてはならない。
加えて安倍政権はこの5年間に国民の知る権利を奪う特定秘密保護法、多くの憲法学者が違憲性を指摘する集団的自衛権行使を容認する安保法制、個人の自由な精神を縛る共謀罪法などを強行採決で次々と成立させてきた。
安倍首相は改憲によっても国民主権や平和主義、基本的人権の尊重など憲法の基本理念が変わることがないと強調する。しかし、平和国家、民主国家としての国柄が変質してしまう可能性を危惧していることを世論は吐露している。
明治ブ―ムと近代史
今年は明治百五十年だそうだ。インタネットでは関連イベントが多く検索される。司馬遼太郎著「坂の上の雲」は多くの日本人に読まれ、テレビドラマ化されて人気を博した記憶も新しい。
しかし、これによって日本人の明治観が定着したと指摘する識者もいる。さらに、小説の背景となった明治史の暗い面、朝鮮半島への覇権政策をめぐる歴史であることがきちんと書かれていないと歴史家からの批評もある。
生半可な知識を反省して、数年前から近代日本と朝鮮・中国の関りついての解説書を少しずつ読み出した。私たちの国と隣国が融和できていない根っこがそこにあるからだ。
石川啄木は日韓併合(1910)を蛮行した日本帝国への怒りと祖国を奪われた朝鮮国の人びとへの想いを寄せて次の歌を詠んだという。