戦争の過ちを二度と繰り返さないために

「9条の会さかい」発信 2022.12 N0.69

2023年01月02日 14:30

危惧すべき防衛政策大転換

 岸田政権は歴代政権が堅持してきた専守防衛を転換した。他国の領土を攻撃可能な「敵基地攻撃能力」保有を決定し、それを防衛三文書に明記した。また、2027年度までに防衛費を倍増することを閣議決定した。その財源には国債発行や国民に増税を求める案を示した。

 専守防衛とは、具体的に日本が攻撃や侵攻を受けたときに、自国の領域外に押し戻すための必要最小限の反撃である。9条は武力による威嚇を禁じている。今回の防衛政策はこのような抑制的自衛から攻撃的防衛への大転換になる。

 その背景に、日本を取り巻く安全保障環境の厳しさを政府与党は強調する。北朝鮮が繰り返すミサイル発射や中国の海洋進出であり、今年二月に起こったロシアのウクライナ侵攻を脅威と掲げて国民を強く扇動する。

 政府与党は「抑止力」として防衛力強化と併せて、日米軍事同盟を核とする集団安保体制を挙げる。その一方で周辺国との軍事的緊張を招き、軍拡競争の泥沼に踏み込むことになる。今回の政府発表に、北朝鮮中国ロシアからは早くも威嚇的な反応があり、韓国でさえ専守防衛の範囲内との注文付き容認である。

 与党内および維新や国民民主党からは、物価高騰時期に重なる増税を回避する反論も上がるが、国の平和を探る道筋からは逸れている。政治の使命は戦争への準備ではない。戦争を回避するための外交努力である。「そうせよ」と主権者国民が声を上げなければならない。

 

 

戦争被害者想定なしの「抑止力」論議

浜田防衛相は敵基地攻撃を行使できるタイミングについて「他国が我が国に対して武力攻撃に着手した時」と述べた。つまり攻撃を受けていなくとも「攻撃の仕草をすれば反撃するぞ」との政府の威嚇的な公式見解と受け取れる。これは先制攻撃と紙一重であり、相手国にとっては反撃の正当化が成り立ちやすい。

しかし、この論には相手国から反撃されることで、国民に犠牲者が出ることが想定されているのかと疑わざるを得ない。攻撃力を増強すれば、相手国のミサイル基地を全て破壊することが可能で、反撃で向かってくるミサイル等を全て撃ち落とせるとの幻想さえ思い浮かぶ。犠牲者の出ない敵基地攻撃力=抑止力の楽観的防衛観である。日本は海岸線沿いに全59基もの原発があり、それらが攻撃対象になり得る議論も聞こえて来ない。その惨状への想像が働かないのだろう。勇ましい議論よりは、戦争出来ない国であることを政治家たちは認識すべきだ。

 

 

中井久夫の観察にある酷似性

今年八月に八十八歳で亡くなった精神科医中井久夫の著書「戦争と平和 ある観察」に付箋紙を貼ったページを読み直すことがある。 

中井が先の大戦を見つめて描いた戦争の顔がある。この国の防衛政策が大きく転換する今、前述の顔が現状に酷似している。その顔を紹介することで今、何が起こりつつあるのかを考えていただけたらと思う。以下、著書抜粋より。

 

3.「状態」としての平和 より

時とともに若い時にも戦争の過酷さを経験していない人が指導層を占めるようになる。長期的には指導層の戦争への心理的抵抗が低下する。その彼らは戦争を発動する権限だけは手にしているが、戦争とはどういうものか、そうして、どのようにして終結させるか、その得失は何であるかを考える能力も経験もなく、この欠落を自覚さえしなくなる。

4.戦争準備と平和の準備 より

しばしば「やられる前にやれ」という単純な論理が訴える力を持ち、先制攻撃を促す。虫刺されの箇所が大きく感じられて全身の注意を集めるように、局所的な不本意状態が国家のありうべからざる重大事態であるかのように思えてくる。指導層もジャーナリズムも、その感覚を煽る。

 

 

政界の恥部次々と年暮れぬ   昌利       

この道はいつか来た道戻る道彼の戦禍を政治は語れず   蒼果

 

 

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