戦争の過ちを二度と繰り返さないために
「9条の会さかい」発信 2023.1 N0.70
岸田政権は日本周辺の安全保障環境が厳しさを増していると連呼して、GDP比2%相当の防衛力増強策に邁進する。国民には増税を要求し、「敵基地攻撃能力保有」によって戦争が出来る国になろうとしている。しかし、国の存続と国民の安全がそれで保持できるのか強い疑念が湧く。来るべき食糧危機に備えるべく国の施策はいかがかだろうか。現状は極めて深刻だ。
「核の冬」とは
ロシアのプーチンがウクライナ侵攻策で核兵器の使用に言及し世界を震撼させた。米国ラトガース大学の研究によると、核戦争が起こった際には核攻撃の被害よりも「核の冬」による餓死者のほうが多くなるという研究結果を発表した(朝日新聞デジタル版2022年8月20日)。
「核の冬」とは核爆発によって大気中に巻き上がる煤や煙が太陽光を遮り、地球規模で気温が低下する現象を指す。局地的な核戦争でも核攻撃による死者は約2700万人だが、「核の冬」による食料生産の減少と物流停止による2年後の餓死者は2億5500万人、このうち3割が日本人で餓死者が7200万人(日本人口の6割)になると推定されている。この研究が指摘するのは核戦争が起こらずとも、食糧生産の減少や物流停止が起こると日本が集中した飢餓に陥るということだ。
四つの食料危機要因
「世界で最初に飢えるのは日本」の著者鈴木宣弘教授(東京大学大学院農学生命科学研究科)は日本の食糧安全保障について次のように訴える。世界は四つの食糧危機に直面しているという。先ずは異常気象による自然災害、二つめコロナによる物流停滞、三つめ中国の食糧買い占め、四つめウクライナ戦争によるロシア二国の小麦生産量と輸出量の激減を挙げる。
この事態に20以上の食糧生産国が輸出制限に踏み出した。金で食料が買えない時代に直面しつつある。世界の食料需給構造は少数の生産国と多数の輸入国で成り立っている。背景にアメリカの食料世界戦略を指摘する鈴木教授。「食料は武器より安い武器」として、他国がアメリカに食料依存する仕組みを作ってきたからだ。
食料生産の限界
さらに鈴木教授はショッキングな実態を浮かび上がらせる。現代農業は化学肥料と水を大量に消費する大規模農業が主流になり、その副作用として土壌劣化が進み作物が育ち難くなり、より大量の水を消費せざるを得なくなっている。さらに干ばつの頻発が水不足に追い打ちをかけている。加えてリン鉱石とカリウム鉱石は今後数十年内に資源枯渇が予測され、化学肥料の生産にも限界が見えている。
日本の食料自給率は37%と先進国中最低だ。さらに、野菜の種や家畜飼料、化学肥料の原料はほぼ100%海外依存だから「真の自給率」はもっと低いと鈴木教授は警鐘を鳴らす。
原材料不足と円安による輸入価格が高騰して肥料や飼料に燃料等の価格を押し上げ、農家の生産コストを増大させている。昨年4月から半年間に 400戸の酪農家が離農し、加速されているという。鈴木教授は打開策に3兆円規模の農業支援策と有機農業を軸にした循環型農業への転換を提唱する。
食料安全保障への転換を
政府は武力増強依存の偏狭な安保政策に固執するばかりで食料安全保障が全く欠落している。武器よりも安い食料の自給率を上げる政策が全く見られない。台湾有事の米中戦争では日本が巻き込まれる事態が起こり得る。その際、シーレーンが封鎖されて食料補給が絶たれたら「兵糧攻め」となる想定に全く及んでいない。
既に人類は荒ぶる異常気象によって食料生産の危機に脅かされている。武器など要らぬ。国民を守るための食糧安全保障に取り組め。
四つ切りの白菜の値や妻を呼ぶ 昌利
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