戦争の過ちを二度と繰り返さないために

「9条の会さかい」発信 2023.3  N0.72

2023年03月31日 18:40

大江健三郎さんを失ったこと

大江健三郎さんが三月三日に亡くなった。「9条の会」呼びかけ人の一人をまた失ったことに喪失感を覚える。

大江さんは活動の原点を次のように語っていた。「僕が十二歳のときに憲法ができた。学校で9条の説明をされて、もう戦争も軍備もないと聞いて、その二年前まで戦争をしていた国の少年は、一番大切なものを教わったと思った。自然な展開として、作家の仕事を始めた。9条を守ること、平和を願うことを生き方の根本に置いている。『戦後の精神』を持ち続ける老人でいたい」。大江健三郎さんのご冥福を祈ります。

 

 

哲と晋三

 この三月に二本の記録映画、中村哲氏の「荒野に希望の灯をともす」と安倍晋三氏の「妖怪の孫」を観た。既に他界されたお二人だが、対照的な生き方を感じる。比べて貴賤を問うつもりはないが、陰陽的なシーンを取り上げてみた。

中村哲さんの祖父玉井金五郎は北九州で港湾荷役業を営んだ。血気盛んな労働者を束ねる親分肌で祖母マンととに火野葦平「花と龍」のモデルになった。哲少年はマンから「人に貴賤の差別をするな」と躾けられたという。

 中村さんは脳内科医だがパキスタンの僻地に渡り、ハンセン病の治療に当たった。戦乱からアフガニスタンに移るが、医療以前に食料難に喘ぐ民を救うために、砂漠に灌漑用水路を引いて食料自給が出来る耕地開墾を自ら実行した。中村さんは相手の文化や風習を尊重することで現地の人々の信頼と協力を得た。それに支えられて事業は前進し、16,500haの耕地に65万人の農民の生活を護るまでに復興させた。

 安倍さんは「昭和の妖怪」と呼ばれた岸信介の孫だ。岸は自主憲法制定に強く拘った。安倍さんも祖父の意思を受け継いだ。安倍政治は分断の政治だった。貧富と社会的格差を助長し、非正規雇用者を大量に生み、自己責任論と他者への冷笑を醸成した。忖度政治は数々の疑惑を生み、政治的無関心を誘導した。インタビューアーには「何事もうまく見せかけることが大事。成功とか不成功は関係ない。やってるって事が大事」と語り、安倍政治の本音を吐露した。

 二人に唯一共通することは凶弾に倒れたことである。お二人のご冥福を祈ります。

 

 

「食の安全保障」その2

 食料危機について再度取り上げる。三月牛久市で「世界で最初に飢えるのは日本」の著者鈴木宣弘氏(東京大学)の講演を聴いた。深刻な実態の説明に、氏の著書を再度読み返した。

 日本の食料自給率は37%と先進国中最下位だが、種やヒナ、肥料や家畜飼料を100%近く輸入依存するから実質自給率は10%にも満たない。背景には自由貿易の推進で自動車を軸とした工業製品の輸出産業を成長させたこと、その代償に農産物の輸入開放で国内農業に犠牲を強いて来た経緯がある。最近の国際紛争と円安が輸入資材を高騰させ、更なる追討ちをかける。農家存続の危機は国民の生存に関わる。

 2022年4月28日産経新聞デジタル版には「有事には一日三食イモになる」との記事、農水省白書が出処らしいが、書いた役人不作の国民も哀れだ。世界的な食料危機には自国分の確保が最優先になる。日本への支援など期待する方が脳天気だ。武器があったところで腹は満たされない。金で食は買えないと気付くべきだ。

農業支援策として「循環型食料自給」を目指す法案が超党派で国会提出されるようだ。地域の在来品種の種苗を使って種から消費までの安全安心な食の循環ネットワークをつくるために、国と自治体が財政支援する「ローカルフード法」案。成立に政治家は汗を流すべきだ。

水だけで二日も過ごせば「飢餓」の辛さは容易に体験できる。安全な国産大豆小麦牛乳など、高くても買って食べる食料ナショナリズムが必要だ。それが本来の国防である。


九条の命脈保ち多喜二の忌  昌利

食足りてこそ争ひの芽を摘まむ衛(まもる)べし農育てたし子ら   蒼果

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