戦争の過ちを二度と繰り返さないために

「9条の会さかい」発信 2024.12 No.92

2025年01月05日 23:55

韓国「戒厳令」騒動に思うこと

 12月3日夜、韓国の尹錫悦大統領が非常戒厳令を宣布した。その直後、国会に集結した野党議員が解除決議して戒厳令を無効にした。尹氏は戒厳軍を向わせて議員らを力ずくで排除しようとしたが、駆け付けた民衆が軍に向かって激しく抵抗した。戒厳令解除で軍は撤収、6時間の騒動に終わった。発端は議席の過半数を握る野党の攻勢に政権運営が行き詰まった末の暴挙であり、尹氏への国民の批判は厳しく、弾劾裁判は免れまい。

幸いこの騒動で流血を見ることはなかった。民衆の勇気は称賛されるが、とりわけ彼らに向けて発砲しなかった軍の抑制的な行動が注目される。

 ジャーナリスト徐台教氏による記事「韓国軍や情報機関の‘抗命’、非常戒厳「迅速解除」に寄与か…浮かび上がる民主化の歴史」が目に留まった。戒厳軍司令官が大統領の命令に背き、国民の安全を最優先に被害が発生しない作戦を展開したという。そのため兵士に実弾を与えず、「議事堂に入り中の人々(議員)を引きずり出せ」との大統領命令に抗命を承知で部隊には「議事堂に入るな」と指示、その任務をさせなかったという。司令官には大統領命令に対して違法性があるとの認識が働いたようだ。

徐台教氏は軍の「抗命」をどう解釈するかの論調で、その背景は光州事件による国民全体の後遺症と民主化の歴史を挙げている。粗い説明だが、1979年朴正煕大統領が暗殺された後、民主化運動が盛り上がった。側近の全斗煥(後大統領)が軍の実権を握り、運動への弾圧が苛烈になった。さらに、民主化の旗印金大中氏などが逮捕され、これに抗議する光州市の大学生を中心とした運動が起こった。全斗煥は戒厳令を出して運動を武力で鎮圧した。兵士の残虐な暴行を非難する一般市民20万人が抗議運動に加わり、武装蜂起に発展した。軍は大量の兵士を動員して光州市を包囲し、10日間に及ぶ市民との間で銃撃戦が繰り広げられた。犠牲は200人近い死者と多くの逮捕者が出た。これを契機に民主化は進んだが、この事件が国民全体に深い傷を残した。軍内部でも過剰な鎮圧への反動が生じた。それが今回の民衆の抵抗と軍の抑制的行動に繋がったと指摘している。

 一連の出来事を知るに過酷な過程を踏まなければ民主化は具現されないものかと暗澹たる思いになる。

 

 

企業献金は「表現の自由」に非ず

 石破首相は12月10日の衆院予算委員会で、野党が要求する企業団体献金の禁止に関し「企業も表現の自由は有している。献金を禁じることは、少なくとも憲法21条には抵触すると考える」との見解を示した。

 21条は、集会や結社及び言論、出版その他一切の表現の自由を保障するが、企業献金も表現行為だとする石破論の入り込む余地はない。例えばNPO法人に献金することは、その活動目的に賛同して金銭的な支援するという意思表示であり、表現行為になろう。しかし、企業の本質は営利の追求であり、例え企業が政党活動に賛同して献金したとしても、見返りを期待した投資ととらえる方が社会通念に沿う。後日、石破さんはこの見解を「言い過ぎ」と修正はしたが、「その根拠が21条にあるとすれば」と固執し、撤回していない。

 臨時国会では「企業団体献金の禁止」法案に自民党が強固に反対し、野党の結束も乱れて衆院を通過出来なかった。企業が政党に献金することは、企業にとって都合の良い政策を政党に選択させる余地を大きく残すことになる。それは企業が政策を金で買うに等しい行為に相当しよう。

 政治には投票権を持つ有権者の意思の集積が民意として反映されるべきだ。投票権のない企業に参政権を認めれば著しい不公平を生むことになる。原発政策を見れば分かる。福一原発事故の教訓から、原発に依存しないエネルギー転換を目指したはずだが、エネルギー政策の現状は「可能な限り原発依存を低減する」姿勢を放棄し、「原発の最大限活用」方針に転換した。自民党には原発業界から年間約7億円が献金されている。それが原発被災者たちの苦難を無視した政策を推進させている。政治改革は「企業団体献金禁止法」成立が要である。

 
 

老いて猶あすなろの志(し)や秋澄みぬ    昌利  

咲いて散りまた咲いて散るさま木槿なるかの民の史にみゆ誇りと血を   蒼果
 
 



 

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