戦争の過ちを二度と繰り返さないために

「9条の会さかい」発信 2024.3月号 No.83

2024年04月01日 19:39

「三本の毒矢」の果てに

 機能性表示食品の一種「紅こうじサプリ」摂取による死亡と健康被害が起こった。サプリ愛好家にはショックな事件だろう。背景には、アベノミクスの「三本の矢」の一つ成長戦略によって誘導された食品の規制緩和策があるという。これも安倍政治が放った政策の犠牲ではないかとの憤りを覚える。

 ご承知の通り、三本の矢の一つが過剰な金融緩和策である。日銀が安倍政権の下で長期に及ぶ超低金利政策を続けたことで日米金利差が生じた。これが過度な円安を招き、輸入価格を高騰させた。さらに国内の商品価格に転嫁されて物価高となり、国民とりわけ低所得者や年金生活者の家計を圧迫している。

 三本の矢の中で最も期待されたのが成長戦略であったが、これが全く達成されていない。日銀が禁じ手である株式市場に参入したために、産業界の構造改革のモチベーションが奪われた一方で、企業社員は低賃金を強いられてきた。経済成長は停滞したままである。これで儲けたのは投資家だとの批判もあるが、日銀保有株の巨額な含み益は、市場から奪い取ったものだと投資家に断罪されるほど異常事態にある。

 まさに「三本の毒矢」と批判した当時の共産党志位委員長の言葉が思い出される。この尻ぬぐいは誰がするのか? 政治に無関心でいられても無関係ではいられないのだ。

 

「覚悟」よりは食料確保だ

 政府は「農政の憲法」と呼ばれる「食料・農業・農業基本法」を25年ぶりに見直し、「食料安全保障の確保」を掲げた改正案を今年2月末に閣議決定した。これについて、当会報でも何度も紹介した鈴木宣弘東大教授は、この改正案は食料需給率を軽視しており、食料安全保障にもなっていないと厳しく批判している(月刊日本4月号「台湾有事で国民は餓死する」より)。

 鈴木教授によれば、改正案は「安定的な輸入の確保」をするために、輸入相手国の多角化やそこへの投資を重点化した施策となっているという。本来ならば食料輸入がストップした事態に備えて、国内農業への投資と生産増大によって自給率を高めるべきだと力説する。

 日本の食料自給率は38%と低く、化学肥料、野菜の種、家畜のエサ等を90%以上を海外に依存している。鈴木教授の試算では、これらの輸入が出来なくなると自給率は9%に陥り、ほとんどの日本人は餓死せざるを得なくなると警鐘を鳴らす。さらにショッキングな指摘がある。農家の平均年齢は68歳、急速な衰退により10年後には自然消滅の危機に瀕す。畜産業や漁業も同じ道を辿ると警告している。

 キャノングローバル戦略研究所によれば、台湾有事で輸入が途絶すると日本国民は半年で餓死するとして、減反政策の廃止を訴えている。既号で取り上げた麻生放言による台湾有事の「覚悟」よりは、食料確保が最優先である。

 

行き着く先は

 ここまで来てしまったのかという思いだ。日本が次期戦闘機を第三国に輸出解禁するための閣議決定をしたからだ。英国イタリアとの共同開発を進めることに、両国に歩調を合わせたのだ。殺傷能力の高い戦闘機を外国に売ることは、もはや平和国家として看板を降ろしたことを意味する。政府自公与党協議では国際紛争関与助長に対する小手先の歯止め論に止まり、平和国家としての本質的な議論が置き去りにされた。国民的関心と議論に諮るべき問題である。

 3月27日付東京新聞にて安全保障シンクタンクへのインタビュー記事を読む。そこには、この決定が日本社会にとって取り返しのつかない選択になる恐れがあるとの指摘があった。軍需産業の存在感が高まる。雇用と企業税収に依存する自治体も増える。政治的発言力が増して輸出拡大が止められなくなると警告する。まさに原子力産業に見るような既視感を覚える。




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