戦争の過ちを二度と繰り返さないために

「9条の会さかい」発信 2025.1 No.93

2025年02月02日 13:06

トランプ流平和主義

 トランプ大統領就任演説を読む。歴代の大統領就任演説とは、建国の歴史観や宗教的倫理観を振り返り、自国の偉大さや尊厳が格調高く語られてきたようである。しかし、再登壇したトランプの演説からはその品格は感じ取れない。また、資本主義陣営の頂点に立つ大統領になったが、その盟主たる西側イデオロギーへの言及も見当たらない。

戦後の米国は覇権国家として世界の紛争に積極的に介入してきた国だが、今やその過剰さから疲弊を来している。正に覇権国家の衰退であり、世界の軍事的緊張にどう立ち向かうのか。その末路がトランプの掲げる「自国第一主義」であり、同盟の枠組みから脱却しようとする「孤立主義」なのだろう。トランプには自己をステーツマンなどと気取る様子は毛頭なく、ビジネスマンとして国家間の取引で既成の外交を打ち壊そうとしている。

 「我々は、再び世界がかつて見たこともないような最強の軍隊を構築する。我々の成功は、勝利した戦いだけでなく、終結させた戦争、そして恐らく最も重要なことだが、決して巻き込まれることのない戦争によっても測られるだろう。平和を構築する仲裁者と統一者になることが、私が最も誇りに思う遺産である」。

 このような演説の背景には、デンマーク領グリーランドの買収やパナマ運河の管理権返還をぶち上げ、高い関税で迫りながら地政学的権益の拡大を目論む。ウクライナには支援の停止を切り札に、プーチンと裏取引して、ロシアとの交渉に引きずり込もうとするくらいのことはやりかねない。中国が台湾に侵攻しようものなら150%から200%の関税をかけると牽制する。「『関税』は私の辞書で最も美しい言葉だ」とニンマリ顔のトランプにとって、関税とは兵器に勝るものなのだ。

 取引とは利益分配を相互で受け入れることで成立する。「金持ち喧嘩せず」のトランプ流平和主義とは、強大な軍事力を背景に、血を見たくなければ取引に応ぜよとでも言いたいのか。それでも戦争で決着つけることなければ是とすべきではないか。

 

「米史上最高の元大統領」

 昨年末に100歳で亡くなった米国第39代大統領ジミー・カーター氏の訃報を載せた東京新聞(24年12月31日付)の見出しが目を引いた。

 76年民主党大統領候補として出馬、共和党現職フォード大統領を破りその職に就いた。ウォーターゲート事件による政治不信が広がる中、知名度が低く「ジミーって誰?」が流行語になったが、飛び切りの笑顔と農家出身の清潔感が国民を惹きつけた。長年敵対するエジプト・サダト大統領とイスラエル・ベギン首相を大統領山荘に招き、缶詰めにして対話させ、和解に結び付けた。この功績によって退任後にノーベル平和賞が贈られた。

 引退後も世界平和のために奔走した功績を読めば惹かれるものがある。広島にも訪れている。米国元大統領として初めて北朝鮮の地を踏み、核開発に走る金日成主席との会談で緊張緩和に導いた。近年では台湾海峡や南シナ海での軍事衝突への危機感を示し、米中両政府に慎重な対応を求めていた。

 米史上最高のステーツマンの一人カーターさんに対比させて、トランプにもそう呼ばれるほどになって欲しいと思うが無い物ねだりだろうか。

 

最早後戻り出来ないところまで

 去年の世界平均気温が産業革命前の水準より1.6度高かったと欧州の気象機関が公表した。「パリ協定」は気温上昇を長期的1.5度に抑える目標を掲げているが、昨年初めてその目標値を超える危機的状況になった。まして23年が目標値すれすれだったことから、2年連続して記録を更新したことになる。7月22日には1940年以来最も暑い日となった。

 米国は中国に次ぐ世界2位の温室効果ガス排出大国だが、トランプは「パリ協定」からの再離脱を既に国連に通達している。大統領就任演説では、自国の石油・ガス資源を限界まで掘り尽くして、世界中に輸出すると豪語する。米国の富を満たすためのエネルギー世界戦略である。それ故、あらゆる生物の生存がたった一人の人間の飽くなき欲望によって脅かされようとしている。それが杞憂であることを願う。


七日粥戦後の夕餉のことをふと    昌利

青白き星に祈れど捨て場なき憂いの澱をいかにとやせむ   蒼果

 

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