戦争の過ちを二度と繰り返さないために
「9条の会さかい」発信 2025.10 No.102
戦後80年石破所感を歓迎
石破首相の戦後80年所感を当会報は歓迎する。石破所感には従来談話にはない特徴がある。昭和前期の近代史に焦点を当て、自らの歴史認識を語った。「なぜ戦争を避けられなかったのか」と問題提起をした。明治憲法はそもそも文民統制という視点からは矛盾を孕んでいた。軍は統帥権の拡大解釈によって政治に介入した。議会と政党は軍の暴力に屈従した。メディアも軍に迎合して国民を扇動し、国民が軍の躍進に熱狂するという社会現象のプロセスを所感は問い正している。正当な歴史観だ。
石破所感が出された10日後の10月21日に高市首相が誕生した。この政権は維新を抱き込み、与党中枢部を右派で固めた。防衛費を前倒しして兵器爆買を米国トランプに持ち掛けて媚を売る。「防衛」の大義で突き進む果ての危機が現実化する。高市政権の姿勢は日本の近代史が犯した過ちの仕組み(文民統制)を超えて、政権自らが軍拡を加速している。支持率の高さには既視感が漂う。
石破所感はこれを見越していたかのように、政府の暴走を議会とメディアが歯止めの役割を果たせと説いている。さらに、国民に対してはあえて「能動的」という言葉を使って、一人一人がどのような平和を築きたいのかを考えよと促している。
高市夢を語るな政策を語れ!
10月21日高市内閣が発足した。支持率70%と新首相への期待感が伺える。所信表明には「世界の真ん中で咲き誇る日本外交/日本再起/強い経済」等が随所に散りばめてある。30年来の経済停滞から回復に至っていない日本にそのような事実があっただろうか。「小泉劇場」は非正規労働者4割の社会を作り、「アベノミクス」は不健全なインフレと物価高を招き、国民生活を蝕む。高い支持を得た政策は社会に格差貧困を蔓延させた
日本のGDPは後退の一途をたどり、この2年間でインドとドイツに抜かれ5位に後退、数年後には英国に抜かれて6位、70年までに10位に転落の予測がある。ジャーナリスト伊藤惇夫氏が産業競争力の実態を紹介。豪州調査機関によると、各国の産業競争力64項目中57項目にてトップを占めるのが中国、残る7項目を米国が占める。日本がベスト5に入るのは辛うじて一桁だという。
高市所信には成長戦略として官民共同の積極投資でAI等先端分野への総合支援とある。しかし専門家は日本の半導技術は回復不能なレベルにあり、官民共同投資も過去に成功した実例がないと指摘。それ故、国力の加速度的衰退のなかでアベノミクス再来を追う成長戦略の非実現性が見えて来る。政策は虚構であってならず、夢物語を語ることは無責任である。跡始末を負わされるのは国民である。これを伊藤氏は「花火の後に漆黒の闇と灰の山」と風刺する。高市新政権がやることは30年来の停滞衰退の原因を総括し、その結果を政策に反映することではないか。高市夢を語るな政策を語れ!
前川喜平氏講演から
元文科省事務次官の前川喜平氏講演『平和と教育』(10月4日結城市)から、メモの一部を紹介する。
日本は90年代以降、歴史修正主義が台頭した。憲法9条が非戦の砦となっては来たが、辛うじて踏みとどまっている。戦争を語り継ぐことが大切だ。自分の母親は子供にその悲惨さ聴かせることで追体験させた。戦争孤児の体験を聴けば、餓死や凍死で多くの子供の命が奪われたことが分かる。
1947年に教育基本法が制定された。GHQの民主化政策によって修身教育(愛国や孝行)が廃止され、国家神道と決別した。社会科が民主主義の担い手を育てるために導入され、憲法を教えた。2007年に安倍政権は基本法を改悪して、道徳の教科化による価値観の内面化など不当な介入をした。
長崎原爆資料館では南京大虐殺を展示している。日本国民の戦争体験とは被害ばかりでなく、加害の歴史も引き継ぐことに責任があるからだ。
戦後の日本はユネスコに加盟(1951年)し、教育科学文化等で国境を越えた交流を持ち、今に至っている。アメリカ一辺倒から脱却した国際交流を発展させてこそ平和の構築となる。
荻彼岸水兵帽の遺影かな 昌利
売る媚に熱狂を見るこそ秋寂し季節外れの朝明の厳つ霊 蒼果