戦争の過ちを二度と繰り返さないために

「9条の会さかい」発信 2025.11 No.103

2025年12月03日 22:54

「存立危機事態」と「敵国条項」の枷

  先月会報で石破首相の80年所感を取り上げた。それは高市政権の行く末を見越した警鐘とも受け取れた。その懸念が早くも露呈した。高市首相が台湾有事の際の「存立危機事態」相当性を国会で答弁したことが、習近平国家主席を激怒させた。
 台湾の中国帰属については、既に1972年の日中共同声明で中国の考えを尊重することが謳われている。従って歴代政権は慎重な発言に終始してきたが、高市発言は余りにも軽率過ぎた。台湾帰属は中国が核心的利益とする内政問題である。一方で「存立危機事態」とは、集団安保体制の中で同盟国軍への攻撃が日本の存立に致命的な危機をもたらす際の究極的対抗措置を指す。しかし、高市答弁は日中外交と存立危機への配慮を欠いていた。
 中国は高市答弁の撤回を求めて、日本への観光自粛策や日本からのイベントを中止させ、水産物禁輸等の対抗措置を執り始めた。今後、経済的圧力から軍事的圧力へとエスカレートさせる懸念が大きい。直近では在日中国大使館が国連憲章の「敵国条項」を持ち出して、日本への制裁権行使に言及し始めた事に驚愕する。高市氏が頼みとするトランプ氏はこの問題に距離を置く。彼の思考からは仲裁に入って損するよりは中国寄りだ。そこから小国日本の置かれた現実が見えてくる。
 「敵国条項」とは、第二次大戦で戦勝した連合国・米英仏中露がかつて敵対した日本などに対して、安保理決議を経ずに独自に軍事的制裁を課せる条文のことである。しかし、既に死文化との認識が国連加盟各国で大勢を占め、2005年には削除案が採択されたものの、改定されずに現存している。言わば日本は連合国によって枷がはめられ、戦後の国際的秩序を乱す行為をしたら制裁するぞと迫られたのである。中国にとって台湾帰属問題はその範疇にあるからだ。
 「存立危機事態」答弁によって日本が存立の危機に陥っては堪らない。高市首相には国民の生命及び平和的生存権を守る責任がある。自ら招いた舌禍であり、答弁撤回すること強く求める。

 

何故定数削減するのか

 与党維新が衆院比例の定数1割削減案を持ち出したが、その根拠が全く不明だ。有権者にとって何のメリットがあるのか。メディアの論調を整理する。
 衆院は小選挙区で「民意の集約」、比例代表で「幅広い民意を反映」において、比例のみ削減はそれを乱す。比例の削減は議席占有率の高い大きな政党に有利になり、小数政党ほど不利に働き、民意の多様性が汲み取りに難くなる。経費削減が目的ならば、50議席減らしたところでせいぜい35億円である。それならばいっそ政党助成金350億円を削れば良い。等々削減案には否定的要件が多く上がる。
 小選挙区制は弊害ばかりが顕著になっている。大量の死票が民意を切り捨て、少ない得票率でも多数議席を占めて与党政権になるシステムは、有権者から政治的関心と投票意欲を奪い、投票率の低下を常態化させている。選挙は民主主義を支える土台である。小選挙区制が見直されるべき段階に来ている。より良き中選挙区制度を模索転換することを求める。

 

国旗損壊罪法案の危険性

 参政党が「国旗損壊罪」法案を参院に提出した。自民維新も同罪制定を目指している。日本を侮辱する目的で国旗を損壊すると罪を課すという法案だ。しかし、侮辱そのものの解釈に際限なく、国旗の損壊が国家への侮辱だとする論理の倒置につながる。
 この法案への反対意見は多い。その根幹には憲法21条が保証する「表現の自由」への侵害がある。小林節氏(慶大名誉教授・憲法学)は次のように解説する(月刊日本12月号)例えば、「自分たちこそ『日本の正統性』代表する者」としてシンボルに国旗を掲げる団体もある一方で、彼らの主張に「反対」する者が意思表示として国旗に×を書き込むことがあり得る。しかし、損壊罪で保護された国旗は特権を持ち、反対派の口を封じて弾圧する道具にもなり得る。これが拡大解釈されたら、政府の政策に反対する野党を「日本国」に対する反逆者として弾圧する切り札に繋がりかねないと危険視する。この法案成立に断固反対する


 

裏金や人のあえぎの声凍え   昌利    

余りにも軽き言葉に吹き荒れる霜月の風ははやも冷たし   蒼果  

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