戦争の過ちを二度と繰り返さないために
「9条の会さかい発信」 2020年4月 No.37
メルケル演説にある民主主義
3月18日、メルケル首相はドイツ国民に感染拡大阻止の協力を要請した。テレビカメラに真っすぐ目を向け、抑制的で穏やかに語りかけた。いかに緊急事態であっても、民主主義国家として守るべき原則を示しながら。ウェブサイトに掲載された和訳(藤田直央/朝日新聞編集委員)から、至言的と感じるところ紹介したい。
『ドイツ連邦共和国の首相としての私と、連邦政府の同僚すべてが、何を指針としているかをお話したいからです。これは開かれた民主主義の一面です。私たちは政治的な決定を透明な形で行い、説明します』と、国家の行動には法的、科学的根拠と透明性が必要と説明する。
既に、ドイツ国内は様々な制限が発令されていることに、『連邦政府と各州が合意した様々なことの中止が、私たちの暮らしと、民主主義社会としての私たちにとっていかに侵略的なものであるかも承知しています。・・・私は皆さんに保証したい。・・・こうした制限は絶対的な緊急時にしか正当化されません。民主主義社会では決して軽々しく発動されてはならず、暫定的でないといけない』と、政府が国民に課している制限、それが国民と民主主義に対して侵略的な行為であると自覚するが故に、自由という根本の権利を国民に約束すると表明している。
さらに今、人間が直面している危機に、『パニックには陥らず、しかしあの人たちは関係ないと一瞬たりとも考えないでください。誰も犠牲になってはいけない。誰もが大切にされるべきであり、私たちは一体となって努力することが必要なのです』と差別(特にナチス時代の人種差別を意識しているように)への抵抗、自分と他者との連帯を呼びかける。
そして、『私たちの繁栄は、何かをせよと強いられるのではなく、知識を共有し、積極的な参加を促進することによるのです』と、民主主義社会における国家と個人の関係に言及している。
新型コロナウイルス感染症対策に関するメルケル首相のテレビ演説
(2020年3月18日)
コロナ禍の後に来る世界への道筋
ユヴァル・ノア・ハラリというイスラエルの歴史学者で哲学者の寄稿記事(3月30日日経電子版)を紹介したい。
ユヴァルは、今私たちが直面している危機は、世界大戦後最大の危機であり、各国において短期間に下される施策が数年先の世界の形(医療から政治経済や文化まで)を作ると示唆する。故に、私たちは今重要な選択に直面していると。
『その一つめは、社会が「全体主義的な監視」か「市民の権限強化」かの選択である。』
感染拡大を封じ込めるには、感染者を特定し、その行動を管理制限すれば容易である。スマホと顔認証機能を持つ監視カメラを連携させることは既に活用されている。それが中国だという。スマホや腕時計型スマホから個人の体調(体温・脈拍・血圧等々)と移動情報を吸い上げる。一人ひとりが誰に会い、誰から感染したかを特定することは容易である。
ユヴァルは、このシステムで感染が封じ込められるならば、プライバシーにとって戦慄すべき監視を正当化し、許容することが私たちに出来るかと問いかける。彼は、この問題の本質はプライバシーと健康の二者択一ではなく、どちらも維持できることが健全な社会であると説く。その担保として、科学的な根拠や事実を私たちに伝え、信頼しうる政府であれば足りると。
『二つめは、「国家主義的な孤立」か「グローバルな結束」いずれかの選択である。』
パンデミックはグローバル化に起因するものであり、解決もグローバルな協力以外にないと指摘する。国家間でデータと医療技術を共有し、検査キットや人工呼吸器等の医療機器の生産と配分をグローバルにすることを説く。過去、エボラ出血熱の流行など世界規模の危機には米国が指導性を発揮して来た。現在はその役割を放棄し、混乱を生み出している米国を批判し、それに追随して前者を選択するならば、人類はさらなる悲劇に直面すると警鐘を鳴らす