戦争の過ちを二度と繰り返さないために
「9条の会さかい発信」 2020年5月 No.38
5月会報は先が見えないコロナ禍の下で、今私たちが注意を払わねばならないいくつかの視点を取り上げてみました。ご留意いただけたら幸甚です。
「#検察庁法改正案に抗議します」500万超
安倍政権による検察人事の定年延長に関する検察庁法改定案に野党から厳しい質問が浴びせられている。これまでの森法相、人事院、安倍首相の答弁は破綻し、現在の武田行革担当相答弁は迷答を極めている。無理筋法案の故だ。
検察庁とはロッキード事件で知られたように、検察官が時の政治権力者でも法に則り、躊躇なく起訴する強い権力と高い独立性が求められる組織だ。安倍政権の検察人事介入はその独立性を崩し、忖度を促す目論見と批判されても仕方なく、司法機構の私物化の最たるもの。
それに関連して、黒川検事長定年延長の閣議決定と検事総長人事への恣意的な介入だ。黒川氏は第二次安倍政権以降、法務省官房長と法務事務次官を務めた。その間、小渕優子元経産相政治資金問題、甘利明元経済再生相あっせん疑惑、森友学園問題の財務官僚不祥事等の処理で「安倍官邸の代理人」と酷評された人物である。
今後、「桜を見る会」や森友疑惑の再燃、河井案里議員問題など進展次第では安倍首相の進退が決まる。その防波堤にもなり得る検事総長人事介入。これを絶対に許してはならないと、ツイッターたちの「#検察庁法改正案に抗議します」行動は大きい。当会員読者もツイートを。
非常時法の遺物
4月会報に紹介したユヴァル・ハラリは自国イスラエルではプディングの規制法が独立戦争後60年以上も存続したと話し、非常時の措置が継続的に正当化されると警告する。
カルロスゴーン被告の日本脱出は、日本の司法制度への強い抗議である。誰が被疑者であれ、法律上は判決が下るまで「無罪を推定」されることが原則であり、逃亡や証拠隠滅の恐れがない限り、身柄は拘束されないはずだ。しかし、弁護士以外は、身体的拘束と家族の面会や電話・手紙さえも許されない孤立状態で捜査官の厳しい取り調べを受けざるを得ない。この「人質司法」は憲法が保証する人権の侵害だと弁護士会から批判され、国際人権基準にも違反する。
これには捜査官が作る尋問調書を裁判証拠として偏重する制度の特異性が指摘されている。きっかけは戦中の東条英機内閣時、裁判官の負担を軽減するために法廷での被告人証言よりも調書を優先した戦時特別法が戦後に引き継がれたことにあるとされる。それが自白の強要と冤罪を生み出している。ではどうすれば? 政権交代に期待するしかあるまい!
コロナ便乗改憲への懸念
憲法記念日、安倍首相は改憲派オンライン集会へのビデオメッセージで「緊急事態条項新設」への議論を促した。自民内では外出禁止や私権制限を可能にする法制定の意見も飛び出したという。感染拡大防止対策の遅れが現行法にあるかのような不見識と不誠実さではないか。
これも改憲派にとっては、現状のパニック状態が強い権力行使との相性の良さを感じているように映る。しかし、今執られている「緊急事態宣言」と自民改憲「緊急事態条項」案(2018年3月)は全く異質の法令である。宣言では特措法に基づく要請であるから、私権制限をする場合は法改正を伴う国会のチェックが働く。一方、条項は法律に代わって効力を持つ政令が国会のチェック無しで政府から出される。国民の権利に強い制限を加える政令も政府の一存で可能となる。その根拠が憲法に基づくものとなるから、憲法本来の位置づけにそぐわない。
4月末の共同通信社の改憲世論調査では、緊急事態新設に賛成51%、反対47%と容認派が多い。まさに、パニック下での相性の現れだ。緊急事態宣言の免疫作用に注意すべきだ。