戦争の過ちを二度と繰り返さないために
「9条の会さかい発信」 2020年7月 No.40
嫉妬深い男の社会
森友事件で自殺した赤木俊夫さんの妻雅子さん。週刊文春7月23日号で語ったのは、上司に取り入り、保身と出世欲を露わにした人たち、それを彼女は「嫉妬深い男の社会」という言葉で抉り取った。俊夫さんが信頼していた同僚は、雅子さんが望んだ麻生大臣の墓参を握りつぶし、今は地方の財務事務所長になっている。俊夫さんが手記で「詭弁を通り越した虚偽答弁」と批判していた太田充主計局長には、財務省事務方トップの次官席が用意されていた。安倍政権特有の褒賞人事と世評が浴びせられている。
「私や妻が関係しているということになれば、総理大臣も国会議員も辞める」。3年前の2月、この答弁が不祥事を方向転換させた。その末端で夫が犠牲になったと雅子さんは訴えている。
「嫉妬深い男の社会」をつくる皮相的一面が行政権力への忖度である。その誘発装置として、内閣が操る官僚人事の機構が設けられている。「私の雇い主は日本国民」が俊夫さんの口ぐせだったという。彼のような公務員が解放されるにはこの悪しき機構を解体するしかない。
コロナ禍「君が代」斉唱と教科書に共通する意図
コロナ感染が拡大している3月、都立全校253校の卒業式に「君が代」斉唱を都教委が通達、全校がそれに従った。学校は校歌でさえ飛沫感染を避けて歌わなかったのに、「君が代」だけは通達に従わざるを得ず困惑したという。
「君が代」は教育勅語とともに軍国主義教育に採り込まれた歴史がある。ところが、戦後間もない昭和二五年、文部大臣天野貞祐が教育勅語に代わる教育や思想の基準として「君が代」を提唱した。戦後民主化の下でも残ったこの思想は、99年「国旗国歌法」法制化。小渕首相は「国民に新たな義務を課すものではない」と語ったが、今回の都教委の措置は子供たちに「君が代」が特別な意図を持つと映ったことだろう。
中学校の教科書採択の今年、事前の教科書閲覧会に当会員4名で参加した。採択に足る教科書には、質と視野の広さが備わり、特に歴史・公民では公正で民主的な記述が求められる。
教科書を注意深く読めば執筆者の意図が浮き出る。読後感のいくつかを紹介する。「基本的人権」については『西洋の人権思想に基づく』と相対化された記述になっており、自然権由来の視点が薄弱である。「集団的自衛権」を国際貢献として賞賛する説明がされている。「領土問題」は多国間の主張が交錯するが自国本意に比重を置く説明が目についた。興味を惹いたのが与謝野晶子の『水軍の大尉となりてわが四郎 み軍にゆくたけく戦へ』。戦争賛美とも読める歌を記載。そんな教科書が採択されることがないよう、自治体の教育委員会には教育現場の意見尊重や採択プロセスの公開性等を要望した。
やられる前に攻撃する妄想戦略
「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない」(53年鳩山一郎首相)。
歴代政権は専守防衛を堅持して、この敵地攻撃能力を保有することを採り上げて来なかったが、地上イージス防衛計画が中止に至り、その穴埋め策として、自民党がこの議論を進める検討会を立上げた。
敵が攻撃を開始する状況を察知して、敵の攻撃直前にその拠点を破壊する。過去に石破茂防衛庁長官は「東京を火の海にするぞと言ってミサイルを屹立させ、燃料注入し始め、不可逆的になった場合」と説明。これまで北朝鮮は日米韓に対して同様な威嚇を繰り返してきたが、軍事的政治的メッセージに過ぎず、判断が難しい。同様に、複数で偽装して移動する発射装置を正確につかむことなど至難の技、相手の防衛網をかいくぐり攻撃するなど不可能と専門家は指摘する。曖昧な情報と判断によって先制攻撃したならば、自滅のシナリオが待っている。
戦争は政治の延長線上にあると言う。妄想から目覚めた外交政策を政治家に求めたい。