戦争の過ちを二度と繰り返さないために

戦争への道はゆるさない!いま、田中正造の思いを受け継いで

2016年02月29日 19:17

 

第21回田中正造を現代に活かすシンポジウム参加報告

(2016年2月21日(日)栃木県佐野市中央公民館)

 

事務局 大竹勉

 

 日本の公害闘争の原点である足尾銅山鉱毒事件。住民救済のために明治政府と対峙し、命がけで明治天皇に直訴した田中正造(1841-1913)が追い求めた平和主義と立憲主義。田中正造は今もこの国の理想を我々に呼びかけている。正造の不屈の生き方と人間愛を学び、壊されようとしている平和と民主主義を守るために、講演会が開かれた。

このシンポジウムは今回で21回目となるという。講演者には飯田進氏(本会代表世話人)と小森陽一氏(東京大学教授・九条の会事務局長)を迎えた。また、気がかりな国会の状況を塩川てつや氏(共産党衆議員)が登壇して報告した。当日、会場はほぼ満席となった。参加者は240名を超えたとアナウンス。

 


オープニング 

講演会

 

 

 

 以下、各講演内容について、聞き手(大竹)の印象とメモから整理して報告したい。

 

1.塩川てつや氏

 昨年9月の栃木茨城水害では、小山市も被害を受けた。その数はおよそ数百世帯、常総市に比べれば少ないが被災助成金の対象から除外されている現状を訴えた。

 国会では19日に野党共同(民主、維新、共産、生活、社民)で戦争法制を廃案に追い込む法案が提出された。昨年9月19日に安保関連法が強行採決されて成立したが、その後も安倍政権によって具体的に戦争ができる国への準備が着々と進んでいる。

迫った課題に、自衛隊による南スーダンへのPKO活動派遣だ。しかし、南スーダンは事実上の内戦状態にある。そのような中で、政府は対応を検討、外国からの派遣要請を断る根拠を失っている。戦争法廃止案の成立を急がなければならない。

 埼玉県入間基地では、自衛隊病院建設計画が用意されている。これは、アフリカに自衛隊員を派遣した際に、エボラ出血熱に感染することを想定した対策の一環だされる。

 群馬県上空では米軍航空機の訓練低空飛行が頻繁になっている。横田基地からは輸送機が飛来して、教室への騒音になっている。さらに、日米共同訓練の一環として特殊部隊を運ぶオスプレイの飛行コースにされようとしている。

 5野党・党首会談を開催して、戦争法廃止・集団的自衛権行使容認の閣議決定撤回を共通目標、安部政権打倒、与党・補完勢力を少数に追い込む、国会・国政選挙での協力を確認し、幹事長レベルで具体化をはかることで一致した。

 

 

2.飯田進氏

 足尾銅山鉱毒事件は公害闘争の原点になった。これを率いた田中正造の精神は、栃木県内の環境を守る運動に引き継がれている。塩谷町放射能汚染特定廃棄物最終処分場建設に対する反対の闘いや佐野市の産業廃棄物処理場建設反対の運動として取り組まれてきた。一般市民レベルへの展開に向けて、“原発いらない”栃木県民パレードから“輝け憲法9条・戦争法反対市民パレードを繰り広げてきた。

 佐野市内では憲法カフェを開いて、憲法前文への理解を深めながら安倍政権が強行成立させた戦争法の勉強会が催された。安倍政治は安保法制(戦争法)で“人類”への罪を犯した。

 教科書検定問題で法廷闘争(1965-1997)した家永三郎氏は田中正造を「稀有の、土着の民主主義思想家」と評した。明治政府が成立した当初、政治は薩長の藩閥独占政治が横行していた。これに危惧した田中正造は1880年「国会開設建白書」をもって時の政府に訴えた。そこには田中の憲法観・国家観(田中正造の政治思想の原点)が表れている。「人民の国会を望む所を炎々として、烈火の如し」「国に政府あるは人民の福祉を企画するがためなれば、人民たる者はその政事に参与して相分の義務をつくす」と。

 また、議会と憲法のあり方について、他国の場合という比喩を用いて「もしこの暴君があって、日本の詔勅のごときものを以って・・・度々あったらどうしたものであるか。そうすると憲法の効力というものがなくなってしまう」と1893年で議会演説し、立憲主義を説いた。

 足尾鉱毒問題で闘う田中正造の思想的根拠は、自治と人権であった。自治は生存の基盤と権利であり、生存権・財産権・請願権を認めて人権を擁護するものとした。「人権は法律より出たるものにあらず、天則より出でたるものなり」と人権は自然権として与えられた権利であることを指摘している。

 足尾銅山の粗銅生産は、明治10年47トン、鉱毒事件が顕在化した明治23年には5846トンと急激に増大し、明治27~37年の日清・日露戦争のころまでには6500トンになっていた。明らかに戦争準備に向けた生産量の拡大であった。癒着する政府と銅山経営者に対して、「満州問題を扇動するの資力なかるべし」と批判した。このような資本主義と戦争の論理に気付き、軍備の廃止による戦争放棄して国際強調に基づく平和主義を田中は説いた。

 田中正造の闘いは現代にも通用する平和主義であり、安倍政権の立憲主義と憲法9条の破壊に対して警鐘を鳴らしている。

 

 

3.小森陽一氏

 小森氏は「2015年安保闘争」と称して「戦争させたい・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の署名活動に言及して口火を切った。

60安保70年安保が主導権争いと内部抗争を運動の背景に展開されたが、2015年安保では主導権は誰もあるいはどこのグループもとらないことで運動を継続していく。これが現代安保闘争の極めて象徴的な形態である。運動はネットでつながる一人一人の連鎖がもたらす集団であり、一人の参加者として意思表示する。

 昨年あたりから“野党は共闘せよ!”コール、下(民衆)からの声で野党共闘が実現するようになった。この夏の参院選に向けた運動の拡大がどこまで出来るかが注目される。

 「戦争法の廃止を求める統一署名(総がかり行動実行委員会)」は2000万人署名を目標に展開されている。だが2000万人には根拠がある。マスメディア中最も右寄りの産経新聞世論調査結果をもってしても、現政権批判運動に「参加したことがある」答えた割合は3.5%、「参加してもよい」が17%で合計20%を占める。政治への意思表示可能とする国民全体を1億人とすると、2000万人に相当するこの層を目標対象にしたものだと説明する。つまり、参院選はこの層を引き入れてこそ勝利が見えるという。

 60・70年安保闘争時代、大学における学生運動は自治会運営が中心を成していて、運動への動員力を発揮した。しかし、社会的影響が拡大していくにつれて、マスメディアを中心とした批判と報道統制によって運動は徐々に分裂と衰退に追い込まれた。

 2015年安保闘争の新しい力とは、SEALs・地方・女性・保守系四つの結集であるという。

SEALs(自由と民主主義のための学生緊急行動)のメンバーは“何月何日の今日、私は・・・に反対します”と一人称で訴える。女性メンバーの一人は“水着を買って、マツエク(まつ毛エクステンション)して国会に来た”とマイクで訴えた。このようなスタンスで運動をスタンダード化した。

安倍政権による安保法制に対して、400の地方議会が反対もしくは慎重な審議を求める意見書が送り付けられた。この内、100以上の地方議会は本来保守層が占める議会でもある。

  「女の平和」は赤をシンボリックカラーにして“女性も選挙に行かせる”スローガンで運動する。「安保関連法に反対するママの会」は“誰の子供も殺させない”とコールして、子供への責任を訴える。

 この言葉はこれからの自衛隊員に聴かせたい。南スーダンに派遣される彼らを待ち構えているのは誰か?反政府組織の兵士には多くの少年兵がいるという。隊員の銃口はだれに向けられるのか。隊員の構えたスコープ照準の中に映るターゲットが自分の子供と同世代であった時に、隊員は引き金を引けるのか?引くかなければ自分が殺される。瞬時の葛藤と恐怖はPTSD(心的外傷)となって生涯に渡り自己を責め苛むだろう。

 アメリカの戦争に加担した英国の苦悩を知ってほしい。二国間協定による2003年イラクへの先制攻撃。大量殺りく兵器はどこにも無かったその果てにIS(イスラミックステイト)を生み出した。集団的自衛権とはアメリカの戦争加担に他ならない。

 2015年9条と25条を守ろう。小沢一郎氏(生活の党)が一命を賭して参入した野党連に報いよう。

 

 

4.フロアーからの発言・応答

〇 今、各神社では署名活動が展開されている。「美しい日本を取り戻す」改憲署名1000万人だ。これに対抗するためには、お寺(仏教)、キリスト教、天理教などに呼びかけて、私たちの「戦争法を廃止する」2000万人署名に参加してもらうことを皆さんにお願いしたい。

 

 街頭宣伝などで通行人に聞いてもらうにはどうすれば良いか?

“一つのテーマを400字程度の原稿にまとめて話すと、通行人が通り過ぎる間の時間で終わる。これをやってみてください”(小森陽一氏)

“安倍政権批判は、戦争法廃止だけではない。原発再稼働反対やTPP協定反対などがあるから、一般の人たちの多様な関心事に訴えるようにすることが大切だ”(小森陽一氏)

 

〇 今の子供たちは学校でさまざまなストレスを抱えて、子供なりの息苦しさを感じていると思う。親として、子供にどのように対応していくのが良いか?

“自分で考えて、自分の言葉で話せる子供たちになって欲しい”(飯田進氏)

“息苦しい雰囲気の世界は、小泉政権時代にイラクで3人の日本人が人質になった事件があった。この時人質になった人たちに向けて、政界やメディアなどから「自己責任」論をふりかざした攻撃が多くなされた。人間は他の動物とは違って自己責任がとれない社会的な動物である。

子育ても同様であり、児童憲章にも謳われているように、社会が責任を持って子供たちをフォローしなければならない。子供たちはそれを受ける権利があることを教えてほしい。”(小森陽一氏)

 

 

5.“ぶっつけ本番 いっしょに歌いましょう”

 報告が前後するが、オープニングではこのシンポジウムを支援鼓舞する田中正造にちなんだ歌が参加者を巻き込んで歌われた。その一つを紹介する。鉱毒事件、水俣病、放射能汚染はいずれも人災。だから人間によって止められると訴える。

 

「いつの日か」(詩:笠木透 曲:北嶋誠)

 鉱毒は人災なんだから 人間が作り出したものを 人間が止められない はずはない

 ああ それでも それでも

 いつまで続く この日本の打ち壊し

 変わりなく 川は流れる 渡良瀬川よ

 私たちは いま生きている

 

水俣病は人災なんだから 人間が作り出したものを 人間が止められない はずはない

 ああ それでも それでも

 いつまで続く この日本の打ち壊し

 変わりなく 内海は広がる 不知火の海よ

 私たちは いま生きている

 

 放射能は人災なんだから 人間が作り出したものを 人間が止められない はずはない

 ああ それでも それでも

 いつまで続く この日本の打ち壊し

 変わりなく 海は横たわる 福島の海よ

 私たちは いま生きている

以上

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